WeatherCock Vol.3

冬、日本海にできるすじ雲〜すじ雲を作る
  1. 筋状雲の発生メカニズム
  2. 筋状の雲を作る実験
    1. 実験目的
    2. 実験道具
    3. 実験方法
  3. 結果と考察

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  1. 筋状雲の発生メカニズム 

    冬型が強まると日本海沿岸に筋状の雲が発生する。この筋状の雲はシベリア高気圧の移流、気団の変質が原因で発生する。以下にその発生メカニズムを説明する。

     大陸や海洋のように、水平の広がりが1000km以上にわたって一様である地域に、大気が長期間停滞すると、特有な性質をもった空気の固まりができる。これを気団という。冬期のシベリア地域の大気最下層は、地表の強い放射冷却により低温で乾燥している。これがシベリア気団の発源地の状態である。

     さらに下降気流によって厚い逆転層*1が形成され、安定した成層をもったシベリア気団(高気圧)が形成される。日本付近を通過する低気圧が北西太平洋などで発達すると、この高気圧との間に強い気圧傾度が生じ、気団は冬の北西季節風に流され、日本海上を吹き渡る。このとき、気団は日本海で水蒸気と顕熱を補給し、気団下層は不安定になる。十分に不安定になると対流が発生し、筋状の雲が形成される(写真1、2)。

    写真1 1983年11月26日正午の可視画像

    写真2 1983年11月27日正午の可視画像

    <1993 「ひまわり」で見る四季の気象 より>


    *1通常、対流圏内では高度とともに気温が減少するが、場合によっては高度とともに気温が高くなる層が観測されることがある。この層を逆転層という。 
     
  2. 筋状の雲を作る実験
    1. 実験目的

       前節の筋状の雲の発生メカニズムを実験によって確かめるためる。

    2. 実験道具

       段ボール(トイレットペーパーの箱が好ましい)、バット(ドライアイスの煙が見えるように下に黒いものを敷くとよい。段ボールを底に沈ませるとよく見えた)、カップ麺の容器、ドライアイス、湯。

    3. 実験方法
      1. 段ボールで図1のような装置を組み立てる。このとき助走路は煙が流れやすいように少し傾斜をつけておく。助走路の下流に湯を入れたバットを置く。
      2. 段ボールの箱の中に湯を入れた容器を置き、その中にドライアイスを投入すると白い煙(水蒸気の凝結したもの)が発生する。この煙を助走路へ流し、湯の入ったバットへ導く。このときロール状の筋状雲が形成される。
    図1 実験装置の模式図

    <1994 気象の教え方学び方 気象の教室6 より>

  3. 結果と考察
    1. はじめ、湯の温度を高め(約40℃)にしたとき、激しい上昇流が発生し、筋状の雲は観察されなかった。
    2. 次に温度を30〜33℃にすると写真3〜8のようなきれいな筋状雲が数秒間(写真5〜8の間隔は約1秒)観測された。
    3. さらに温度を下げる(25℃)と煙はほとんど変化せずに移流することが確かめられた。
    4. 煙の量が多いときは筋は観測されなかったが、次第に煙が少なくなっていくとともに観測され始めた。

    写真3 煙の量が多く対流が見られない。

    写真4 煙の量が適当になり、筋が見られるようになる。

    写真5 再び煙の量が多くなり(一度煙を貯めたため)筋が消える。

    写真6 きれいな筋が5〜6本見られる。

    写真7 煙の量が少なくなり次第に消える。

    写真8 筋はほとんど見られなくなる。

     

     以上のことから温度や空気の移流量によって筋状の雲の形成過程が変化することが分かる。また、この煙を下流から観測すると、図6のような対流が起きていることが確認でき、全体から見るとこの対流はロール状をしていることがわかった。

     実際に、写真1、2のような筋状の雲は図6のような形で対流しながら移流をしているため、ロール状の雲を形成している。

    図6 流速が高度とともに変化している流れの中に生じるロール状対流の模式図

    対流のパターンは上昇流の下にアルミ粉が集まってできた縞模様を見ることができる。
    実際の流体素子は対流による回転運動をしながら下流に流されていく。

    <1984 一般気象学より>
     

  4. 参考文献

    気象の教え方学び方 気象教室6

    名越利幸・木村龍治
    1994
    東京大学出版会

    一般気象学

    小倉義光
    1995
    東京大学出版会

    「ひまわり」で見る四季の気象

    (財)日本気象協会
    1994
    大蔵省印刷局

    気象の事典

    和達清夫
    1995
    東京堂出版

    図解 気象の大百科

    二宮洸三・新田尚・山岸米二郎
    1997
    オーム社